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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)7156号 判決

原告 光洋繊維株式会社

右代表者代表取締役 倉光貞雄

右訴訟代理人弁護士 福井秀夫

被告 青崎敏雄

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 西浦義一

主文

被告らは原告に対し連帯して金六〇万円及びこれに対する被告青崎敏雄については昭和四四年一月一二日以降、被告橋口誠司については同年同月一三日以降各完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

この判決は原告において被告らに対しそれぞれ金二〇万円の担保を供するときは、その被告に対し仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告らは原告に対し連帯して金九九万七、〇七〇円及びこれに対する被告青崎敏雄については昭和四四年一月一二日以降、被告橋口誠司については同年同月一三日以降各完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、請求の原因及び被告の主張に対し次のとおり述べた。

「一、原告は肩書地において繊維製品の卸業を営むものであるが、昭和四二年三月一九日、訴外中村正和を雇入れるに際し、同日訴外人の伯父又は従兄弟にあたる被告らと訴外人が将来不都合な行為等により原告に損害を及ぼしたときは、被告らは原告に対し訴外人と連帯してその損害金を賠償する旨の契約をなした。

二、ところが訴外中村正和は故意少くとも過失に基いて別表記載のとおり昭和四三年五月三一日より同年六月二一日までの間に、原告の実際の販売(卸売)価格の合計が金一七九万四、二九〇円であるのに原告の販売価格と異った安値でもって、或時は卸売伝票を書換えたり等して各種繊維製品を合計金七九万七、二二〇円で売渡し、原告に対し右の差額金九九万七、〇七〇円の損害を与えた。

三、よって原告は被告らに対し右身元保証契約に基き、連帯して右損害金九九万七、〇七〇円とこれに対する訴状送達の翌日である被告青崎敏雄については昭和四四年一月一二日以降、被告橋口誠司については同年同月一三日以降各完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

尚被告ら主張事実はいずれも否認する。」

被告ら訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり答えた。

「一、原告主張請求原因第一項の事実はこれを認める。

二、同第二項の事実は不知、仮に原告主張のとおりであるとしても、訴外中村正和の行為と原告主張の損害との因果関係の点は否認する。即ち訴外人において権限外の行為をなしたのであるから原告に損害が発生する由がないのである。」

尚次のとおり主張した。

「仮に訴外中村正和において原告に対し損害賠償義務があるとしても、左記事情がありこれを斟酌するときは原告の被告らに対する請求は失当である。

一、被告らは訴外人の伯父もしくは従兄弟として訴外人の母から懇われるままに訴外人が原告の倉庫係見習として勤務するということで身元保証をなしたのであるから、訴外人が入社後一年数ヶ月にもならない間にスーパーマーケットに対する販売を担当させられるが如きことは夢想だもしないところであり、又訴外人が販売係に変更されたことについては何等通知をうけていない。

二、本件損害は、被用者である訴外人が権限外の行為をなしたのについて、使用者である原告が法律上はその必要がないのに自ら責任をとり出捐したことによる損害であるから、身元保証人である被告らに賠償義務はない。

三、訴外人の不法行為は原告の被用者に対する監督上の過失が原因で、発生したものである。

即ち訴外中村正和は生来言動活発ではなく智力にも劣り大阪府立農芸学校普通科定時制を辛うじて卒業した状態であったので、使用者たる原告においては訴外人の能力に応じた業務に就かすべきであったのに前記の如く入社後一年数ヶ月にもならない間にスーパーマーケットに対する販売を担当させたのである。」

証拠≪省略≫

理由

一、原告主張請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで同第二項の事実について判断する。≪証拠省略≫を総合すると左記事実を認めることができる。訴外中村正和は原告会社に入社後数ヶ月して一人でスーパーマーケットニチイ及びライフに対する販売を担当していたが、スーパーマーケットの係の者等から「冬物の商品で埋められるから。」とか「責任は持ってやる。」等といって強引に値引きを迫られたため結局二重伝票を作成する等して昭和四三年五月三一日より同年六月二一日までの間に別表記載のように卸売価格の合計が金一七九万四、二九〇円であるのに、右価格と異った概ね安価(もっとも別表の中には同じ価格で売っているものや高く売っているものもあるが)で各種繊維製品を合計金七九万七、二二〇円で売り渡し、総計において右の差額九九万七、〇七〇円の損害を原告に与えたこと、前記事情から訴外人において自己の行為が原告に損害を及ぼすことを知りながら敢えてなしたと思えるし、知らなかったとしても、この点に不注意があったこと、以上の事実を認めることができ他にこれを左右するに足るものはない。もっとも被告は訴外人の行為と原告の損害との因果関係を争っているが、前掲証拠によると訴外人の権限外の行為といっても訴外人の職務行為と密接に関連している行為の結果発生したものであることが認められるから、右の損害は通常生ずる損害であると解するのが相当である。

三、次に被告らの主張事実について考えてみる。先ず第一の主張については、前掲証拠によっても被告らにおいて訴外人が原告の倉庫係見習として勤務するということで身元保証をなしたことを認めるに足るものはない。もっとも≪証拠省略≫中には右主張にそう部分があるが、前掲各証拠によると当時原告会社は店員全部で男女合せて一五名という小さな商店で、特に倉庫係とかいうような係の区別はなく全部が店員で、入社当初はしばらく先輩等とともに得意先廻りなどをして見習をした後、一人で販売を担当するような仕組となっていた事実を認めることができ、又≪証拠省略≫によると特に身元保証契約に職務の限定等ないことを認めることができ、右各事実と対比すると前掲被告らの供述部分はたやすく措信できない。

そして第二の主張については、前示のとおり訴外人の行為は権限外の行為といっても職務に関連のある行為といえるので被告らにおいて責任を免れることはできない。

ところで第三の主張については、≪証拠省略≫を総合すると、訴外中村は生来智能等に劣り学業成績もよくなく、高校卒業までに一年落第し、かろうじて府立豊芸高校普通科定時制を卒業できた状態で、思考力、判断力、行動力等において普通人より劣ることは容易に発見できると思われるので、使用者たる原告においては能力に応じた職務を担当させるべきであったのに、入社後間もなく商品仕入について苛酷な商法を用いるスーパーマーケットに対する販売の仕事を担当させた点に監督上の過失があったと解せられ、又本件不法行為は約二〇日間にわたって二重伝票を作成する等して行われたが、監督者において毎日伝票を整理する等していたら早期に発見出来たと思われるのでこの点についても監督上の過失があったと考えられる。

以上の事実に前掲各証拠によって認められる被告らが本件身元保証を為すにいたった事由、本件誓約書に署名した経過、その際用いた注意の程度、訴外人が見習から販売担当になったについて何等通知等のなかったこと等諸般の事情を考え合せると、被告らに対し連帯して金六〇万円の限度において責任を負わせるのが相当であると思料する。

四、以上のとおりであるとすると、原告の被告らに対する請求は、連帯して金六〇万円とこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな、被告青崎については昭和四四年一月一二日以降、被告橋口については同年同月一三日以降各完済にいたるまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 西池季彦)

〈以下省略〉

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